修士論文要旨

協調誘引のための相互依存ネットワーク

林 亮輔 (2018年2月)

社会は人々の協調の下になりなっている。しかし、ごみのポイ捨て、電車のかけこみ乗車、計算機ネットワークのただ乗りなど、参加者の協調によって実現されているサービスやシステムにおいて、自らの利得のみを考え社会全体の不利益になる行動をする者が存在する。こうした存在は非協調者またはフリーライダーと呼ばれる。非協調者が増加し、そのサービスやシステムの存続が困難になると、非協調者当人を含む参加者全員の不利益となる。このような問題は社会的ジレンマと呼ばれ、各個人が最大の利益を得られる行動と、社会全体として最大の利益を得るために各個人が取るべき行動が異なる場合に発生する。

社会的ジレンマは、生態学、特に進化生物学では動物や人間の世界で見られる協調行動がなぜ発生するのかを明らかにするため、社会学、特にメカニズムデザインでは協調行動を促すメカニズムを明らかにし、協調を誘引するためのルールを考えるために研究されている。いずれの分野においても、非協調への誘引を持った構造の中で、協調するメリットをどのように合理的説明するかに焦点をおいている。

一方で、現実世界にある様々なネットワークをグラフとしてモデル化して数理的に扱うネットワーク科学では、現実の人やモノの繋がりであるネットワークの性質や構造の理解を目指し、モデル化したネットワーク上において現実世界の現象のシミュレーションがなされてきた。ネットワーク科学では協調問題に対し、人々や生物同士が相互作用する環境であるネットワークの構造が協調に及ぼす影響が議論されてきた。これにより、生態学や社会学で見落とされていた、同じルールの下でもネットワーク構造、すなわち人々や生物の相互作用の様子によって協調の実現性が変化することが明らかになった。そして、近年ネットワーク科学で注目されている相互依存ネットワークと呼ばれるネットワーク構造の上で、従来では協調が実現されなかったパラメータ化でも協調が実現しうることが示された。

本研究では、社会的ジレンマの研究をさらに前進させる、また、未だ十分に解明されていない相互依存ネットワークの性質を明らかにするために、相互依存ネットワーク上での協調誘引について研究を行った。その結果、先行研究で示された協調誘引の、詳細なメカニズムを明らかにした。さらに、この協調誘引のメカニズムの、他の相互依存ネットワーク上での問題への応用の可能性を提案した。