卒業論文要旨

群れ行動と縄張り行動の相転移モデル

澤田 樹 (2018年8月)

本研究では、周囲の個体数密度に応じて群れ行動と縄張り行動を切り替える魚類の事例をヒントに、これらの行動が、周囲の個体数に依存する一つの変数による相転移現象として扱えるようなモデルを提案する。

研究の背景として、群れ行動に着想を得た群知能アルゴリズムや、縄張り行動に着想を得た被覆制御アルゴリズムなど、生物集団の知的な振る舞いに着想を得た数理最適化モデルが盛んに研究されていることが挙げられる。群れの数理モデルと縄張りの数理モデルを比較すると、どちらも多数のエージェントが探索空間上を動き回る点では共通しているが、前者は最適化問題の解決、後者は最適配置問題の解決といった異なる問題解決能力を示すといったように、両者の間には類推を見出すことができる。

従来の研究では、群れ行動と縄張り行動は異なる現象として個別に数理モデル化されており、それらの行動が発現する統一的な因子はほとんど考えられてこなかった。一方で、群れ行動と縄張り行動のような異なる問題解決能力を持った集団の振る舞いが、どのような原理によって生じ得るかを理解することは、生物の持つ省エネルギー性や環境に対する高い適応性などの特徴を工学に取り入れ、より有用な数理モデルを設計していく上で重要であると考えられる。

評価実験では、提案モデルの妥当性を評価するため、エージェントの利得が周囲の個体数に依存しない場合と、周囲の個体数が増えるほど利得が割引かれる状況を考え、エージェント全体がどのように振る舞うかを観察した。その結果、前者では群れ行動、縄張り行動の特徴が発現することを確認した。また、周囲の個体数による利得割引の強度を変化させた際、群れ行動-縄張り行動間の移行の様子が急激に変化することを示し、この移行が相転移現象として扱えることを示した。