修士論文要旨

進化ゲーム理論を用いたネットワークスライスの割り当て

長嶋 幸之介 (2022年2月)

第5世代移動通信システム(5G)を支えるネットワークスライシングは、1つの物理ネットワーク通信基盤を複数の仮想ネットワーク(スライス)に分割して、提供・運用する技術である。ネットワーク利用ユーザからの高速、低遅延などの通信の要求に対してプロバイダが適切なスライスを割り当てることにより、その要求に合わせた柔軟な通信をユーザに提供する。ネットワークスライシングでは、ユーザの要求するQoSとして帯域やレイテンシなどの様々な要素を考慮した上で、スライス割り当てを行う必要がある。

現在、ユーザへのスライス割り当て方式として様々な手法が提案されている。その中の一つに、複数の意思決定主体間の相互作用をモデル化する、ゲーム理論を用いた手法がある。この手法では、サービスプロバイダ間で加入者獲得のためにゲームを行い、ゲームの結果に応じてプロバイダが他プロバイダの戦略に対する最適な戦略をもとに割り当てを行うことで、加入者にスライス割り当てを行った。しかしゲーム理論では、各ユーザは他ユーザの行動を予測して自身の行動を決定するという前提があるが、大多数のユーザが存在するネットワークにおいて、この前提を正当化することは難しい。

ゲーム理論における上記の課題を解決する手法として、進化ゲーム理論が挙げられる。進化ゲーム理論では、各ユーザは自身の利得を高めるために、他ユーザと限られた資源をめぐるゲームを繰り返し行い、他ユーザの行動や過去のゲーム結果に基づいて、自身の戦略を変更する。プロバイダが資源を各ユーザに割り当てるのではなく、各ユーザが繰り返しのゲーム結果から得た戦略をもとに選択することで、ゲーム理論における前提を必要としない、最適な資源割り当てを実現する。

そこで本研究では、スライス割り当ての類似の研究である無線帯域割り当てに進化ゲーム理論を適用した研究に着目した。そして無線帯域割り当てでの手法を参考に、進化ゲーム理論を用いて帯域だけでなくレイテンシなども考慮したスライス割り当てを目指す。本論文では、スライス割り当ての最初の段階として、各ユーザの要求するQoSとしてレイテンシについて考慮したスライス割り当て方式の提案を行う。そして提案手法の評価を行うために、計算機上でゲームの結果に基づき各ユーザがスライス選択を行うためのシミュレータを作成し、実験を行った。その結果、一度限りではなく繰り返しゲームを行うことで、各ユーザの要求を満たす最適なスライス割り当てが可能であることが確認できた。